「珠洲で暮らしてみたい」
珠洲で見た海、体験した食や祭りなど、珠洲で触れた全てに心を揺さぶられ、移住を決意した小菅さん。
奥能登国際芸術祭の運営を通して、来場者へ珠洲の魅力を発信するとともに、自分自身も珠洲と向き合い、この先地域のために何ができるのか模索しているところなんだとか。
「今がどうありたいか」自分の気持ちに従い、いまこの瞬間を全力で生きる、小菅さんの悠々自適ライフに迫ります。
小菅 玲奈(こすが れな)さん プロフィール
1995年9月14日生まれ、26歳。広島県廿日市市生まれ。
幼少期から高校時代まで奈良県大和郡山市で過ごす。
美術を学びたいと高校を卒業した翌年に関東へ移住し、美大の予備校に通いながら、休日はギャラリー巡りの日々を送る。
2017年に奥能登国際芸術祭がきっかけで珠洲を訪れ、2019年4月に珠洲市地域おこし協力隊に就任。
現在は、美術を通して地域の魅力向上に努める。
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芸術祭が珠洲を知る入口に。
——4年ぶりとなった奥能登国際芸術祭を昨年無事に終え、現在はどのような活動を行っていますか。
小菅さん:奥能登国際芸術祭の記録集の作成のほか、芸術祭に関する記事が掲載された雑誌をまとめる作業などを行っています。
——コロナの影響で1年遅れの開催となった分、芸術祭への思い入れも強くなったかと思いますが、振り返ってみていかがですか。
小菅さん:延期に向けた話が挙がったときは、まだ延期が決まった訳でもないのにかなりショックを受けましたね。コトリンゴの「悲しくてやりきれない」を車内でかけながら帰宅したのを覚えています。
小菅さん:残念ながら正式に延期が決まりましたが、準備期間が延びたおかげで結果的に良かったと思います。
多くの地域の方たちの協力のもと、地域の蔵に眠る民具や財産を思い出とともに集めて整理する一大プロジェクト「珠洲の大蔵ざらえ」をよりクオリティの高い作品に仕上げることができました。
——なるほど。時間がかかった分、地域一丸となって芸術祭を盛り上げる気運が高まったのですね。一大イベントを終えて、今後の目標を教えてください。
小菅さん:準備期間中は、イベント運営をはじめ、パンフレットやガイドブックの制作に関する資料作り、SNSの運用から芸術祭公式WEBサイトのページ作成に至るまで、広報業務全般を担ってきました。
そして芸術祭の会期中は、インフォメーションセンターで来場者への作品案内にあたりました。
小菅さん:芸術祭の運営を通して、市外から足を運んでくれた来場者たちに珠洲の魅力を伝えるためには、まず自分自身が珠洲を深く知らなければいけないと考えました。
そこで、珠洲について学ぶために多くの時間を割きました。
芸術祭に関わっていなければ、珠洲がどんな土地なのか、どんな魅力があるのか、きっとここまで深く知ることはなかったと思いますね。
この先、珠洲とどう関わっていくのか、珠洲のために何ができるのか。さらに地域コミュニティの中に溶け込み、その答えを見つけ出していきたいと思います。
「今がどうありたいか」。珠洲への移住を決めたわけ。
——美術を学ぶために関東へ移住した小菅さんですが、なぜ、珠洲市の地域おこし協力隊を務めることになったのですか。
小菅さん:関東へ移住後、共同のアトリエで暮らしていた時期がありました。
「今度、珠洲ってところで芸術祭に出るんだけど来ない?」ある時、アトリエに併設されたギャラリーで開かれた展示会に遊びに来た作家さんが声を掛けてくれました。
その誘いがきっかけで、作家さんのスタッフとして珠洲へ同行することになりました。
——初めて訪れた珠洲の印象はどうでしたか。
小菅さん:いつかは海の側で暮らしてみたいという思いがあったので、珠洲で見た海の美しさに感激しました。
滞在中に目にした景色や町並み、経験した食や祭りなど、珠洲で触れた全てが相まって、ここで暮らしてみたいという気持ちを駆り立てました。
2か月間の滞在を終えて珠洲を離れるころにはもう、東京へ戻ったら珠洲に住むための準備をしようと思い始めていましたね。
——驚くほどの決断力と行動力の早さですね!そこからは、どのように移住への準備を進めていきましたか。
小菅さん:何度も珠洲に足を運んで移住先を探したり、運転免許も取ったりしながら、準備を進めていきました。
いざ仕事を探し始めようと思ったタイミングで、珠洲の知り合いから、ちょうど珠洲市で地域おこし協力隊を募集していることを教えてもらいました。
芸術祭で珠洲を知った身として、何か芸術祭に携わることができるならと思い、早速応募してみることにしました。
突然の「ビワいるか?」。見ず知らずでもみんな家族
——珠洲市に移住してみて、小菅さんだからこそ感じた魅力はありますか。
小菅さん:朝まで飲んだ帰り道、「ビワいるか?」と、見ず知らずの人から突然声を掛けられたことがありました。
とりあえず付いていくと、家の庭になっていたビワをもいで手渡してくれて、そのまま家に招かれてコーヒーとトーストまでご馳走になっていました。
珠洲ならではの「ヨバレ文化」が当たり前に地域に根差していて、誰に対しても分け隔てなくもてなしてくれる、人の温かさを感じましたね。
——抵抗なく付いて行った小菅さんにもびっくり(笑)。珠洲だからこその人との触れ合いですね。
小菅さん:珠洲市では、火事や行方不明者が発生した際に、防災行政無線で情報を呼びかけます。次第に住み慣れてくると、防災行政無線が流れるたび、なぜか顔も知らないその人のことを妙に心配してしまう自分に驚きましたね。
——すっかり地元民の感覚に染まっていますね(笑)。実際に生活を送り始めて、暮らしやすさについて、イメージと現実のギャップはありましたか。
小菅さん:家賃補助や空き家の購入費補助など、移住者向けの制度が充実していたので、引っ越しして間もない支出の多い時期にはとても助かりました。
一方で、想像していたよりはるかに狭い社会だと感じました。珠洲で暮らす人たちは、苗字を聞いただけで地域住民か移住者かの判別ができたり、車を見て個人まで特定できたりしてしまいます。
良いことも悪いことも噂話も周囲に筒抜けになる分、困ったときには周りの人が手を差し伸べてくれることもあるので、合う合わないは人それぞれかなと思いますね。
——なるほど。それほど地域内のつながりが密接だということですね。
小菅さん:また、空き家バンクに登録されている物件は少なく、さらに修繕が必要なものがほとんどです。すぐに住める家を見つけるとなるとかなり難しいですね。
空き家バンクに登録されていない空き家もたくさんあるので、直接地域の人に聞いて探している人もいます。個人的には、珠洲の風土をまず知るためにも、まずは集合住宅に住んでみるのをおすすめしますね。
——珠洲に移住してから、毎日どんな風に過ごしていますか。
小菅さん:休日は、掃除や洗濯を済ませてから、お酒を飲みながら漫画を読んだり映画を見たりゆったり過ごします。気分で銭湯やお寿司屋に出掛けてみたりも。
小菅さん:また春には、知り合いと山菜取りへ。夏は浮き輪でプカプカ海の上を漂ったり、晩ご飯のおかずにアジを釣ったり。
秋は、スケートボードに乗って家の近所をぐるぐる。冬になれば、毎週スノボに出かけていましたね。
今年の夏にはSUPや一人キャンプにも挑戦してみたいですね!
「未来のことを気にしすぎない、今がどうありたいか。」
——自由奔放な小菅さんですが、マイルールを教えてください。
小菅さん:1つ目は「未来を気にしすぎない、今がどうありたいか」。
例えば、何かやりたいことがあって、あと数日間をわずか数十円で乗り切らないといけないような状況でも、危機に直面した時の自分がどうにか切り抜けてくれるので、今が良ければそれでいいかなと。大概のことは生きてりゃどうにかなるだろうと思って暮らしていますね。
——すごい度胸!羨ましいですね。
小菅さん:2つ目は「まぁいいかの精神で、気持ちに余裕をつくる」。
仕事中のトラブルなら、とりあえず煙草を一服。
仕方がないよねと、気持ちを切り替えるようにしていたら、どんなにショックなことでも、大概一日あれば乗り越えられるようになりました。
——清々しいですね。その考え方は自分も見習いたい…。
小菅さん:3つ目は「なんとなくの自分の直感を信じる」。
周りからやめときなよと言われても、自分ができると思ったことは多少無茶をしてでもやってしまいます。免許を取って初めての運転は、東京から珠洲までの引っ越しでした。謎の自信があったので。
——有言実行できてしまうところがさらに驚きですね。
小菅さん:4つ目は「身近にいてくれる人を大事にする」。
元々LINEなどの連絡ツールで連絡を取り合うことが得意ではなく、長く付き合った友人がいるわけではない分、その時その場所で一緒に過ごしてくれる人のことを大事にしています。
去る者は追わずで、いつかはお互い離れることになるかもしれないけれど、今過ごす一瞬一瞬を大切にしています。
——いまに全力で向き合う小菅さんの生き方、憧れますね。
小菅さん:5つ目は「家に帰ったら飼い猫をハグする」。
家に帰ると猫が玄関で待ってくれています。家にいるときはそこまでベタベタしてこない猫ですが、帰るといつも足にへばりついてくるので、お留守番ありがとうの気持ちをこめて帰ったら必ずハグしています。
——想像しただけでほっこり。癒されます。
気になる!珠洲市の恋愛事情とは?
——珠洲市ならではのリアルな恋愛事情について教えてください。
小菅さん:何かしらの集まりの場へ行けば、出会いはいくらでもあると思います。
単身で移住してきた人でも、最近は、出産して子育てしている人が増えてきました。
ただ、生まれも育ちも珠洲の人にとっては、自身の幼い頃から身内のことまで、周りに全てを知られ過ぎていて、なかなか一歩を踏み出すのが難しいところもあるみたいですね。
奥能登国際芸術祭2020+
《公式サイト》奥能登珠洲芸術祭2023
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