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【インタビュー】ママに寄り添い、助け合える社会を/宿り木助産院 紙尾 千晶さん(前編)

金沢市内で、出産を取り扱わない保健指導型の助産院「宿り木助産院」を営む紙尾 千晶さん

大学病院にて13年間助産師として勤務してきた紙尾さんですが、夫の駐在に伴いドイツのフランクフルトへ渡航。約3年間のドイツ生活を経験されました。

ドイツの子育てしやすい環境や子ども達の未来について関心を持った人々の暮らし方から学んだことを、帰国後は「ドイツで出産した助産師のお話会」や、頑張るママに寄り添った各教室を通じて、多くの人たちに伝える活動をされています。

そんな紙尾さんの温かな想いを、今回取材させて頂きました。

【私を変えたドイツの生活】

————宿り木とは、樹木に寄生してゆっくり時間をかけて生長し、真冬でも緑を保つ植物。そんな宿り木のような生命力を持つ子ども達やママ達が増えますように・・・そんな願いも込められた「宿り木助産院」を開業されたきっかけを教えてください。

紙尾 千晶さん(以下、紙尾):もともと金沢大学附属病院で13年間、助産師として勤務していました。周りのメンバーにも恵まれ、やりがいもあって、本来ならずっと続けるつもりでした。

でも、2人目出産後も育児短時間制度を利用しながら働き、「そろそろフルで復帰しようかな」と考えていた矢先でした。夫のドイツ駐在が決まったんです。

ずっと自分の人生は自分で決めてきて、やりがいを感じながらやってきたのに、夫のせいで仕事を辞めなければならないことが本当に嫌で。

だから当時はすごく葛藤もありました。それでも、やっぱり家族は一緒にいる方がいいのかなと思い、泣く泣く辞める決断をしました。

————ずっと勤めてきた仕事を辞めなければならない、そのときの決断はとても辛かったと思います。ドイツでの生活はどうでしたか?

紙尾:ドイツでの生活は、私の考え方を大きく変えるものでした。

それまでの私は、真面目で努力家で、仕事も勉強も無我夢中でやるタイプだったんです。

でも、いざドイツで暮らし始めると、ドイツ語もろくに勉強せずに渡航したこともあって、買い物もできない、一人でバスにも乗れない、分からないことがあっても聞けない、何かしたくても自分一人では何もできない状態が続いて。

「今までは意義のある仕事をしていたのに・・・」と、一気に自己価値観が低下してしまいました。


だからはじめの数ヵ月は、外に出るのも嫌で、家に引きこもるように最低限のことだけをして生活していましたね。

————そうだったんですね。言葉が通じない国での生活は、慣れるまでとても大変だったと思います。日本でバリバリ働いていたからこそ、できない自分に対する苛立ちや悔しさは計り知れないだろうな・・・。

紙尾:そんなドイツ生活も数ヵ月経つと少しずつ慣れていきました。

すると徐々に、子育てしやすいドイツの環境や、みんなが子育てに関心を持って暮らしていることが分かってきて。

それにドイツに住む日本人コミュニティの中でも、お互い助け合いながら家族や親せきじゃなくても頼れる仲間ができました。

誰かに頼ったり甘えたりするのが苦手だった私でしたが、ドイツで3人目の子どもを妊娠出産して、頼らなければ本当に生きていけない状況になったときに、みんな誰も嫌な顔せず笑顔で受け入れてくれて。

初めて「私が頼ったり甘えたり迷惑かけても、誰も嫌がらないんだ」って。家族じゃなくても頼っていいんだと知ることができたんです。

————なんでも頼ったり甘えたりできる仲間がいるって素晴らしいですよね。子どもを産んだばかりの紙尾さんにとって、すごく心強かっただろうなと思います。

紙尾:そうですね。身内とか他人とか関係なく迷惑をかけあって、お互い様で許し合って助け合える社会って本当に素敵だなって感じました。

紙尾:それから日本に帰国後、自分には今何ができるんだろうと考えました。

もちろん、やりがいがあった前の職場に戻る選択肢もいいかなとも思いました。けれど今この瞬間にも、孤独で自己犠牲しながら一人で頑張っているママ達がいるとしたら・・・もっとみんなが迷惑をかけ合って助け合える社会になっていくお手伝いがしたい。

それをカタチにできるのは何かを考えた結果、この助産院を開業することを決めました。

————ドイツでの生活が、考え方や価値観を大きく変えるきっかけになったんですね。誰にも頼れず頑張っているママ達、本当に多いだろうなと感じます。

紙尾:最近ワンオペ育児とかよく言われていますけど、一人で頑張っても良いことないなって思いますし。

ただ、「ドイツが温かい社会で日本が冷たい社会」と言うわけじゃなくて。

社会や環境に要因があるわけじゃなく、社会を作っているのは一人一人だと思うので、ママ一人一人の考え方や捉え方が変わるだけで、どれだけでも周りは温かくなるし社会も明るく見えると思うんです。

だから、そんな風に思えるママ達がもっと増えていけばいいなという想いで活動しています。

【自分と向き合うきっかけに】

————宿り木助産院では、インファントマッサージ教室やリバースワークなど、ママと赤ちゃんのための教室を定期的に開催しているんですよね。私も以前、ベビーマッサージ教室に通っていた経験があるので、とても面白そうだなと気になりました。

紙尾:インファントマッサージは、一般的に言うベビーマッサージと似ていますね。同じように赤ちゃんのマッサージで、マッサージを通じてママと赤ちゃんの絆をより深めることができるんです。

リバースワークは、子宮の中からもう一度生まれ直す体験です。大きな子宮の袋に入って、周りのみんなに陣痛を起こしてもらい、自分の出たいタイミングで出る、という感じ。それだけのことなんですが、自分にとって必要な気付きが生まれるんです。

————わ~面白そう!リバースワーク、初めて知りました。体験された方々は、どんな反応をされていますか?

紙尾:人によっては、入った途端にワーッと泣き出す方や、「こんな所、入っていられない!」とすぐ出てくる方・・・人によってさまざまです。

私の場合、初めは暗くて暖かくて心地よくて、陣痛がまるで抱っこされているような感覚で気持ちよかったんですけど、だんだん苦しくなって出たくなってきて。でも、「私は我慢強い子だから、まだ出ちゃいけない」という気持ちが徐々に出てきたんです。

我慢するのを辞めたいけど、許されるのかな・・・そんな気持ちが呪文のように繰り返されながらも、我慢を辞めよう!と決めていざ出てみると、すごく気持ちよくて。

我慢を辞めたら、こんなに気持ちいいんだって分かった。それが私の一番の気付きでした。

それ以外にも時間を経て感じる気持ちもあって、自分自身と向き合ったり自分を大切にするって意味で価値あるワークだと感じています。

————人それぞれ感じ方も違って、自分にとって意義のある気付きを得られるんですね。教室を開催する中で、たくさんのママ達を見ていて感じることはありますか?

紙尾:インファントマッサージ教室に関しては、ようやく赤ちゃんとお出かけできるようになった産後間もないママ達が多くて、毎週ママ同士顔を合わせながら、どんどん場も和んで仲良くなっていく様子を見ると嬉しくなりますね。

マッサージをしているとき、赤ちゃんの気持ちよさそうな顔を見て、ママも気持ちよさそうな顔をしている様子とかも。

————ママ同士、仲良くなって頼ったり助け合ったりできるようになれば、きっと育児も楽しくなりますもんね。赤ちゃんもママも気持ち良くなり楽しくなれる場所って素敵ですね。

紙尾:先日リバースワークを開催したときも、「こんなにお腹の中にいるのが気持ちいいなんて!簡単に出てこないのも分かるわ~!」ってみんなでワイワイ話したり(笑)

私、気持ちよさを感じることって、すごく大切だと思ってて。

自己犠牲しながら我慢して育児をしていると、自分が今何をしたいのか、何が食べたいのか、何が心地いいのかを感じられなくなっていると思うんです。毎日に精一杯でそれどころじゃないから。

でも、自分が何が気持ちよくて、何が不快なのかをママもちゃんと感じることができれば、赤ちゃんが本能のままに表現する感情をしっかり受け止めてあげることができると思います。

————そうですね。育児をしていると、つい自分の気持ちは後回しになってしまうというか。赤ちゃんの気持ちを受け止めてあげるためにも、自分の気持ちも素直に感じられるようになることが大切なんですね。

紙尾:お母さんが嫌なことを我慢して生活していたら、子どもはその姿を見て成長しますし、やっぱりママが自分を大切にすることって必要だなと思いますね。

あと私、おむつなし育児アドバイザーもやっていて、月1回仲間と一緒に布おむつとおむつなし育児の交流会を開催しているんです。

そこでも排泄の気持ちよさに心を寄せるっていうことをお伝えしているんですが、ママも赤ちゃんも気持ちよさを感じられることって生きる力になるなと思っています。

【もっと視野を広げられたら】

————この仕事をしていて、一番のやりがいは何ですか?

紙尾:この活動をしていると、参加したことをきっかけに「いろんな繋がりが見えた」と言ってくださるママもいて。

目の前の育児を頑張ることは、環境を大切にすることにも繋がっていて。今の幸せだけじゃなくて、子ども達が成長した未来も大切にできたらなって。

気候変動など問題となっている中で、子ども達の未来はどうなるんだろう?と、そんな風に考えを広げてくれるママが多くなったことが、とても嬉しいですね。

一つのきっかけで繋がりを感じると、あとは私が何もしなくても自分でどんどん調べたり行動したりしてくれるママがいるんです。

————ママ達って、とても行動力ありますもんね。目の前の子育てから、視野をグンっと広げて社会や環境にも目を向けられるって、本当に素晴らしいですよね。

紙尾:自分を大切にして満たすことで、エネルギーが溢れ出てくる。そしたら、そのエネルギーで地球の環境や未来のことなど、周りへの関心も出てくると思うんです。

この助産院をきっかけに、目の前の子どもに精一杯で終わらせず、社会や未来へ目を向けられるママが増えればいいなと思っています。

————とても素敵ですね。ママ達の視野や関心も広がって、もっとお互い助け合いながら、ドイツのような子育てしやすい社会になっていくといいですね。

紙尾:帰国後から、「ワンオペでも孤独じゃない♪あったか育児がドイツにあった!」と題してお話会も各地で開催しているんです。
そこでは、話を聞いた方が「ドイツはいいね、行ってみたいね」だけで終わってほしくなくて。


日本の良さを改めて気付くきっかけになったり、遠い国のことだけど他人事ではない、日々の生活にも活かせることを見つけてもらえるようなお話会になるように心掛けています。

ドイツと日本、お互い違いはありますけど、子ども達のために青い地球を残してあげたい、子供たちが生きやすい未来を残したいという気持ちは一緒だと思うので。


続きは、後編 にて
【インタビュー】ママに寄り添い、助け合える社会を/宿り木助産院 紙尾 千晶さん(後編)