能登半島の中央に位置する自然豊かなまち、穴水町。
牡蠣の養殖が盛んで、冬の時期には穴水湾で採れた牡蠣をテーマにした大きなイベントが例年開催されるなど、美味しい食材にも恵まれています。
今回は、穴水町の地域おこし協力隊として、「能登ワイン」の販路拡大などに携わる青崎さんにお話を伺いました。
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穴水町地域おこし協力隊 青崎 かすみさん
埼玉県出身。中学2年生の夏、父親の故郷である石川県能登町に家族で移住。
大好きなアーティストからの影響もあり、将来は音楽業界への就職を志す。
大学進学を機に上京し、卒業後は念願だった大手レコード会社に就職。
数多くの洋楽・邦楽アーティスト作品の制作・宣伝に携わる。
その後、2019年7月に穴水町地域おこし協力隊に就任。
能登ワイン株式会社にて、能登ワインの商品開発や販路拡大に向け日々活躍の場を広げている。
憧れの世界で走り続けた日々、そしてワインとの出会い
—–本日は、穴水町の地域おこし協力隊として活動されている青崎 かすみさんにお話を伺います。
突然ですが、実は私、穴水町を訪れたのは初めてで。海も穏やかで自然も豊かで、特に能登ワインに広がるブドウ畑は、美しくて思わず感動しちゃいました。青崎さんは埼玉県出身ですが、学生時代は能登で過ごしてこられたんですよね。
青崎さん:そうなんです。埼玉に住んでいた子供の頃も、夏休みや冬休みになると、父の実家がある能登によく遊びに来ていました。おばあちゃんの実家がカキ棚を持っていたので、よくカキ漁の船に乗せてもらったり……能登の地には昔から馴染みがありましたね。
—–上京後は、大手レコード会社に就職し、夢だった音楽業界の第一線で活躍されてきた青崎さん。華やかな業界なだけに面白さややりがいも大きかったのでしょうか?
青崎さん:入社してすぐ、有り難いことに制作宣伝の部署に所属されて。寝る暇もないほど忙しい毎日でしたが、私にとって全てが新鮮で。
当時は、CDがものすごく売れる時代。一つのプロモーションに何千万というお金が動くほど、プレッシャーも達成感も大きな仕事ばかり。
周りの仲間も本当に良い人ばかりだったので、本当に楽しくて仕方がなかったです。
洋楽のアーティスト担当を任されてからは、ロサンゼルスやニューヨークなど海外出張する機会も増えて。現地のスタッフや取引先企業と乾杯をすることも多かったので、そこでワインの美味しさを知り、嗜むようになりましたね。
—–洋楽アーティストの担当ってカッコいい!海外に飛び回りバリバリ働いている姿が想像できます。それにしても、ワインを嗜むようになったきっかけは、海外出張がきっかけだったのですね。
青崎さん:もともと、全然ワインには馴染みがなくて(笑)
ワインが大好きな先輩にワインの飲み方や美味しい銘柄を教えてもらいながら、出張先でのワインを飲む機会が増えるうちに、どんどん「ワインって美味しいな」と思えるようになりました。
そうすると、ワインって国によってラベルが違うし、ブドウの種類も違う。同じワインでも年代によって味も全然違う。それが面白くて、どんどん興味が湧いてきて。
海外のいろんなワインを飲んだり、ワイナリーを見学して周ったりしました。
—–奥深いワインの魅力にどっぷりハマっていかれたのですね。充実した東京での日々を過ごす中で、地域おこし協力隊に転身するきっかけは何だったのでしょうか。
青崎さん:花形とも言える業界で走り続けてきて、本当に仕事は楽しかったですし、やりがいも大きかったです。
ただ一方で、能登という地域も大好きで。「いずれは石川県に戻ろう」そう考えていました。
上京してずっと1人暮らしだったので、家族みんなで過ごす暮らしにも憧れがあって。ちょうど40歳手前のタイミングで、地元に戻るなら今かなって思いました。
能登ワインの魅力をもっと広めたい
—–なるほど。能登に帰ってくる決め手は、家族との時間だったのですね。Uターン移住するにあたって、大変なことや不安はありましたか?
青崎さん:もちろん不安はありましたね。決めたのはいいけれど、仕事どうしようって。
これまで、楽曲だったりアーティストだったり、自分がいいと思うものを人に伝える仕事をしてきました。
たくさんの人にいいものを伝えて共感してもらいたい、この思いだけはブレたくなくて。そんなとき、すぐ頭に浮かんだのがワインでした。
—–いいものを多くの人に伝える仕事、これが青崎さんのやりたいことであり、やりがいや喜びにも繋がっているのですね。
青崎さん:地元でワインに関わる仕事をしたい、その思いで情報収集を行い、いくつもの地域をまわりました。その中で出会ったのが、能登ワイン。初めて飲んだ時は「めちゃくちゃ美味しい」って感動しました。
でも、東京で「能登ワイン」を知っている人ってほとんどいないなと疑問に感じて。調べてみると、能登ワインの出荷量のほどんどが、石川県内で消費されていたんですよね。
だったら、もっと能登ワインを日本全国、世界中にもっと発信していきたい、もっと多くの人に知ってもらいたい、そんな思いが湧き上がってきました。
—–確かに、美味しい能登ワインを石川県内だけに留めておくのはもったいないですよね。ずっと音楽業界でプロモーションを担当されてきた青崎さんの経験も、大いに活かせそうですね。
青崎さん:伝えるものが音楽からワインに変わっただけで、この仕事を通して、東京や海外で出会ったさまざまな業界・業種の方々と、また一緒に仕事できるかもしれないと思いました。
能登に移住したから人脈を断ち切ることは絶対にしたくなくて。これまでの人脈は私にとって大切な宝物なので、職業は変わっても繋がっていたいですし、また一緒に何かやりたい、そう思ったんです。
—–住む場所や仕事が変わっても、また一緒に何かを生み出していきたいと思える仲間がいるって素敵だなと思います。
青崎さん:やりたいことが明確になってからは、行政の方に相談したり、移住者を紹介してもらうなど、移住に向けて準備を進めていたある日、「穴水町の地域おこし協力隊として能登ワインの販路拡大をしてみませんか?」というお話を頂いて。
—–なるほど~。青崎さんの能登ワインに対する思いが、地域おこし協力隊の活動として新たなカタチになったのですね。地域おこし協力隊があることはご存知でしたか?
青崎さん:話を聞くまで、全然知らなかったんです(笑)だからこそ、始めは「地域おこし」と聞いて戸惑いもありました。でも、能登ワインを通じて地域おこしができるんだったらいいなって思って。
能登ワインは、能登空港の開港に合わせて地域おこしの一貫で作られたワイナリーなんです。始まりは、北海道ワインからブドウ栽培を引き受け、穴水町にブドウを植えた2001年。
かつて栗林だったこの土地を、イチから開墾し、5年かけてブドウを実らせ、そのブドウで作った「ヤマソーヴィニヨン」がコンクールで受賞して……地域おこし協力隊に就任して、いろんな方から話を聞くことで、能登ワインがこれまで地道に積み上げてきた歴史を初めて知ることができました。
青崎さん:また、このあたりの土地は赤土なので水はけが悪く、ブドウ栽培には不向きな環境らしいのです。
だから、水はけを良くするために、穴水町の特産品である牡蠣の殻を土壌改良に利用し、ミネラル豊富な土壌作りをしているんです。
そんな努力と試行錯誤を重ね、美味しく実ったブドウから出来たのが能登ワインなんだと知り、本当にすごいなと感動しました。
—–能登ワインには、そんな歴史があったのですね。牡蠣の殻がブドウ栽培に使われているなんて驚き!美味しいブドウを作るまでに、たくさんの人の努力や知恵が活かされているのだと知り、私も感動しちゃいました。
能登ワインの新たな可能性を
—–地域おこし協力隊として、普段はどのような活動をされているのですか?
青崎さん:2019年の就任当時は、能登ワインでの接客販売やイベントでのPR活動などがメインでした。
能登ワインは観光名所の一つにもなっており、夏休みやゴールデンウィークだけじゃなく、何もない平日でも観光バスが何台も止まって、毎日観光客で大賑わい……というのが、地域おこし協力隊1年目。
レジ打ちをさせてもらう中で、「このお客様はこんなワインが好きなんだ」「このお菓子が人気なんだ」など、実際にお客様と接する分、ワインやお土産の売り方についてとても勉強になった1年でした。
—–1年目はいろんな経験から、ワインの販路拡大に繋がるヒントを得られたのですね。
青崎さん:お客様の接客をする中で、ある気付きが生まれました。それは、塩がとても売れるということ。
能登ワインのお土産コーナーには、塩のラインナップも多くありましたが、なぜかワイン塩って無かったんです。
いろんなワイナリーを巡った際、他のワイナリーにはワイン塩が売っていて、とても美味しいことも知っていました。だから絶対に売れる自信もあり、思い切って「能登ワイン塩を作りませんか?」と提案しました。
—–能登ワイン塩って、とても美味しそう!どんな塩なんですか?
青崎さん:赤ワインと珠洲市の「塩田村揚げ浜塩」のコラボレーションで、2020年4月に新商品として誕生しました。
どちらも世界農業遺産の能登の里山里海で育まれた特産品で、赤ワインの美しい結晶のような見た目も好評なんです。
ただ、二つ誤算だったのが、発売と同時に新型コロナウイルスの影響を受けてしまったこと。そして、能登ワイン塩を作るのに、思ったより手間がかかったこと。手間がかかる故、量産ができないので、なかなか販路を広げられないことが分かりました。
《オンラインショップ》 NOTO WINE SALT(ワイン塩)
—–能登の逸品同士がコラボした商品なんて、魅力的すぎます!
赤ワインのキレイな色が出ていて、料理に使えば気分も上がりそうです。こだわりの詰まった素晴らしい商品なので、やはり手間も労力もかかるんですね。
青崎さん:でも逆に量産できないのであれば、ここでしか買えないものという付加価値をつけられるのではないかって。
能登ワイン塩の開発で勉強になったことも多かったので、これからもコラボ商品はどんどんシリーズ化させたいですね。
能登ワイン塩のような調味料だったり、お菓子だったり、お酒以外の商品が、ワインの取り扱いがないお店やワインが飲めない未成年の子供たちにも能登ワインを知ってもらう一つのきっかけになるのではと考えています。
—–確かにお菓子や調味料なら、今まで以上に販路を拡大できますね。お酒が飲めない人にも親しまれそう!
青崎さん:コロナの影響で集客が落ち込んだ頃から、ずっと新しい販路開拓について考えていて。通販での売り方を考えたり、他の売り方を考えたり……客足が減って時間ができたからこそ、じっくり考えることができたんですよね。
ピンチのときこそチャンスなんです。時代が変わるということは、何かを変化させれば必ず対応していける、そう信じて開発したのが、「能登ワイン米飴」でした。
《オンラインショップ》能登ワイン米飴(白)
能登ワイン米飴(赤)
青崎さん:米飴を製造・販売する能登町の「横井商店」と能登ワインのコラボレーション商品で、砂糖を一切使用しない自然派のキャンディなんです。優しい甘さで、子供も食べられるんですよ。
—–私、実際に購入して食べてみましたが、すごく美味しいです!懐かしさを感じる味だし、砂糖を使っていないのが嬉しいですね。
青崎さん:実は偶然なのですが、横井商店の営業部長は、私の高校の同級生なんです(笑)
久しぶりに再会して、「コラボやりましょう!」と話を持ちかけてから、商品化まではものすごく早かったですね。
能登ワイン塩の前例があったので、開発の手順もスムーズでした。
今回想定外だったのが、地元のおじいちゃんやおばあちゃんにも人気が出たこと。私の祖父母や近所のおばちゃんも、気に入って購入してくれました。
ただ、そんな地元の方々からは、米飴の量が多くて高いという声も聞こえてきて。
だったら、量を半分にして価格を安く売ってみてはどうか?そう提案をして、新たに誕生したのが、小さいサイズの米飴です。
—–地元のおばあちゃん達の声をいち早く取り入れるスピード感、さすがです!小袋タイプは、ちょっとしたお土産やプチギフトにも良さそう。パッケージもお洒落ですし、健康志向の方にもピッタリな商品ですね。
青崎さん:能登ワイン米飴のパッケージは和モダンをテーマにしていて、都会の少し高級なスーパーや百貨店にも置いてもらえるような商品として開発しました。
これまでの能登ワインは、観光バスツアーでのお客様がメインでした。でもこのコロナ禍で、異なるターゲット層になったときに、どんなPR戦略が良いのかを常に考えていく必要があります。
この感覚、まさにCDをゼロから売り出していく感覚と似ているなと思っていて。パッケージデザインはどうするか、価格はいくらにするか、どんなプロモーションをするか……商品開発チームのみんなと議論をしているときが、本当に楽しいですね。
—–ゼロから商品を作り上げていくって、本当に大変だと思いますが、その分出来上がったときの達成感は、何ものにも代え難いものだと思います。
音楽業界で働いていた頃のように、本気でワクワク夢中になれる仕事ができている青崎さんが、とてもカッコいいなと思います。
青崎さん:自分のやりたいことが明確化されてきました。能登ワインをもっと広くPRしていきたいですし、たくさんのアイディアがあります。
今年の3月には、新型コロナウイルス治療の最前線で頑張っている看護師の方々に、感謝の気持ちを込めて能登ワイン米飴をプレゼントさせて頂きました。
米飴をなめて、少しでも疲れを癒やしてもらえたらいいなと思い。いつの日かコロナが収束して、また観光ができるようになったとき、「あのときの米飴だ」と思い出してもらえたら嬉しいですね。
—–米飴ならポイッと口に入れるだけなので、看護師さんも食べやすいですね。コロナ禍でも立ち止まらず、いろんな新しい活動や挑戦をされているのが素晴らしいなと思います。
青崎さん:もちろん明日急に能登ワインの出荷が増えるわけではありません。
でも、新商品の開発だったり、プロモーション企画だったり、一つひとつの活動が、いずれ能登ワインを広く知ってもらいファンになってもらうためのきっかけになってくれたらいいなと思います。
能登で描く大きな夢を、カタチにして
—–今後、挑戦してみたい夢を教えて下さい。
青崎さん:いくつか挑戦したいことがあるのですが、一つはやはり能登ワインの主力商品「ヤマソーヴィニヨン」を使ったいろんなプロモーション展開を石川県外にも広げて挑戦していきたいなと考えています。
コロナの影響で、飲食店への出荷が止まってしまい、能登ワインも影響を受けている状況です。
一方で、ブドウはとても良い出来で、どんどん育っているんです。良いブドウが収穫できても、ワインの出荷が出来なかったら、何も利益として生み出せません。
もちろんワインとして売れることが本望ですが、ブドウを使った別の商品として商品開発していくことで、新たな活路を見い出せればいいなと思います。
—–コロナの影響がいつまで続くか分からない状況の中で、今回開発された能登ワイン塩や米飴は、ヤマソーヴィニヨンなどのワインと共に、主力商品の一つとして強力な存在になってくれそうですね。
青崎さん:そうですね。今年は特に、能登ワイン米飴が量産できそうなので、道の駅や金沢駅、スーパー、地元の問屋さんなど、さまざまな施設に置いてもらえるよう、プロモーション展開を強めていきたいと思っています。
また、米飴の溶けている状態のシロップを商品化する動きも出ていて。はちみつのような感じで、料理に入れたり、アイスクリームにかけたり、いろんな用途で活用できるので、今試験的に能登の飲食店向けに卸し始めているんです。
—–米飴のシロップですか!とても美味しそう。米飴っていろんな応用が効くんですね。業務用としてワインだけじゃなく米飴も販売することができれば、更に販路が広がりますね。
青崎さん:コロナが収束後にできることはたくさんありますが、今でもトライアルとして試せることは十分あるなって気付いて。
2021年7月で地域おこし協力隊も3年目に突入するので、今年はさらに色んな活動を考えています。
青崎さん:挑戦したいこと、もう一つはスペース作り。能登ワインには直営の飲食店やカフェがないので、いつかそういう場所ができたらと考えていて。
ちょうど2020年の5月頃、地元の飲食店の方々と話をする機会があって。みんなコロナで大変な状況の中、「何かやらないと……」という危機感を募らせていました。
そこで提案されたのが、能登ワインに合う食事を提供する飲食店が集まり、若手の任意団体を発足すること。イタリアンや中華、和食、お菓子など、多様なジャンルの6店舗がタッグを組み、何か活動してみようとスタートさせたのが、「穴水ロケット」です。
—–なるほど!2020年9月から本格的に始動された「穴水ロケット」ですが、イベント会場や穴水駅前、能登ワインなどでお弁当の販売をされているそう。ネーミングも素敵ですよね。穴水町の魅力を、ロケットのように発信していこうという意味が込められいるんですよね。
青崎さん:そうなんです。少しでも飲食店の方々の助けになればと思いますし、いつの日かお客様が戻ってきてくれる日まで頑張りましょうと、みんなで協力し合いながら活動しています。
穴水ロケットの活動をしていると、「やっぱり能登ワインの直営レストランやカフェがあるといいな」と、改めて感じさせられます。
この活動が、これからの夢の小さな一歩になれば嬉しいですね。
—–能登ワイン直営のスペース作り、想像するだけでワクワクしますね。さらに幅広いエリアや年代の方に能登の良さを知ってもらう機会が増えそうです。
青崎さん:それに、能登ワインのブドウ畑で働く方々の頑張りもぜひ知ってほしいですね。ブドウにかける愛情が、とにかくすごいんです。
美味しくて品質のよいブドウを作ろうと、毎日モクモクと作業されている光景は、映画にできそうなくらいカッコいいんです。だからこそ、私も地域おこし協力隊としてもっとできることがあると思いますし、能登ワインの良さを広めていきたい。これが私の切なる思いです。
穴水ロケットの活動も、新商品の開発も、思い描いている夢を、今年はどんどんカタチにしていきたいですね。
—–品質の良いブドウを育てるプロ、美味しいワインや新商品を作るプロ、そして世界中に能登ワインの商品を発信していくプロ、みんなそれぞれ情熱と誇りを持って取り組んでいるからこそ、本当に素晴らしいものが生まれるんだなと感じました。
常に前を向いて、みんながワクワクすることに挑戦していく青崎さんの姿は、とても爽快で、自分も頑張ろうと勇気をもらえます。ぜひこれからの活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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